武井先生の言葉 in France


本誌での打ち切りから完全版刊行決定まで、様々な波紋をファンに投げ掛けてきたマンキン。
その経緯についての真実は武井先生本人しか知り得ませんが、
先生が海外のメディアで告白した内容には興味深いものがあります。

ここでご紹介するのは知る人ぞ知るオタク大国(?)フランスで交わされた問答です。
情報不足や見解の浅さにより誤訳もあるかと思いますが、その点は何卒ご理解頂けると嬉しいです。


アングレームの祭典レポ2005 (2005.4.12 up)

雑誌インタビュー2007 (2008.12.23 up)
































アングレーム2005・武井宏之氏の「講演」

*原文引用元:The Great Spirit(http://thegreatspirit.free.fr/)




お約束通り、とりわけシャーマンキングの作者に会う為に行ったアングレーム(※フランス西部・シャラント県の県庁所在地)での出来事をお話ししようと思います。



3時間もの道程の末に更に、我が精鋭レポーター隊と私(※このレポートの筆者/以下同じ)は駐車して祭典の現場に行くのにかなりの時間を費やしました。皆さんに説明すると、祭典はアングレームの旧市街地内でありました。かつては要塞化され、岩石でできた岬の遥か頂上にあった都市です。要するに大変な場所で、その祭典のあった土曜日(※木〜日の4日間の日程で行なわれた)は何千もの人でごった返していたので尚更。加えて幸運な事に(※もちろん皮肉った反語表現)、肌刺すような寒さだったのです!


漫画の聖地(あらゆる面での)に着くと、武井氏が話をする事になっている場所を見つけるのに長くは掛かりませんでした。
主催陣はアジア全土(主に日本と韓国)からやって来る漫画家達を迎える為に盛大なもてなしをしたのです。それもその筈、祭典の歴史上初めて、漫画に関して名誉ある場になったのですから。
カナ社(※フランスの代表的出版社の一つ)の展示ブースを見つけた後、私は武井氏が催しの為に到着するのを待ちながら担当係の一人と話をしました。(会場で働いていた人達は帽子を被っていて、素早さの点でも対応の点でもとても感じが良かったのです!)
その時、私はと或る事を知ってとても驚きました。何とごく少数の当選者だけが、シャーマンキングのお気に入りの巻にサインをしてもらえる権利を持っていたというのです!!
と言うのも、講演は日本式に企画準備されていたのです。つまり、催しの前に限定数の券がファンに配布されていて(言わば早い者勝ちだったのです)、貰った人達だけが武井氏に近づく事が出来ました。それが最初にがっかりした事で、残念ながら最後ではありませんでした。
そのような訳で私はもし券が余っていれば欲しいと行儀よく頼んでみました。しかし答えはノー。説明によると、当選者は前日に券を入手済みなので、限られた土曜の講演分はあいにく無くなってしまっているとの事。
唖然として私はもっとしっかりした説明を求めました・・・。
しかし実のところ、武井氏は体調が悪かったらしく金曜の催しに参席できなかったのです。
それが2度目にして大きな落胆・・・。もちろん金曜のキャンセル分を取り戻す為の代わりの催しはありません。おおよそ、私にとっての講演会は台無しになりました。



私が壁にもたれ掛かっていたのは、欲求不満で少し陰気になっていたからでした。でもそれも武井先生が入場するまでの間。彼は小15分ばかり遅れて到着し、私はちょっとしたお土産にとカメラを取り出しました。とても驚いた事に、先生はすぐにチームメンバー(カナ社の翻訳家と日本の出版社の人達)に取り巻かれて再び出て行ってしまい、1,2分後に戻って来たのです。どうしてかなんて私に訊かないで下さい。これっぽっちも知らないのですから。私は彼の真ん前にいて、言うまでもなく嬉しさ爆発寸前でした。ですが、武井氏がコートを脱ぐのに翻訳家の人に手伝ってもらうのを見た時、私は「あれ?」と思いました。彼が極度に進んだ疲労状態の中で32巻を仕上げた事は誰もが知っていますし、おまけに8時間もの時差は諸状況に都合が良くなかったのだと私自身思わずにはいられなかったのです。その事は、後に確認を取りに行きました。
講演会の催しはこのようにして始まり、私は何枚か写真(参照:私のサイトにあります^^)(※祭典公式サイトやメディアの写真も一緒に無断転載していましたがページ削除済み)を撮ってから講演本番を待ちつつ他のブース巡りに出掛けました。



15時30分 講演会開始
危うく遅れて到着しそうになり、私は後部の空いている座席の一つに飛びつきました。全速力で手帳と鉛筆を取り出して準備OK、貴重なメモを取る用意をしました。
男性記者が席に着き、武井氏への参席の謝辞を兼ねた挨拶で始まりました。
まずは漫画家の仕事のテンポに関する質問でインタビュー開始。
武井氏は実に5,6人のアシスタントに手伝ってもらいながら毎週19ページの原稿を描きました。おまけに少なくとも週に1日は休暇を取るよう努め、たとえ仕事で目が回りそうな時でも、家族の為に充分に尽くせるよう努力していたのです。
彼はこう言って締め括りました。そんな努力をしてみてもまだ自分は一家の駄目な父親だと。
そしていよいよ作者のデビューについてです。武井氏はアシスタント時代から始め、22歳の時に『ITAKOのANNA』で賞を獲得しました。人々は確かに、彼が登場人物を次の連載に持ち越した事を非難しました。しかし武井氏はにっこり笑ってこう答えたのです。アンナは自分の赤ん坊であり、理想の女性像なのだと。(ノーコメントにしておきます)
記者の人はそれから、武井氏の前連載作である『仏ゾーン』について触れました。『聖闘士星矢』(車田正美氏作)と対比したファンの傾向についてです。(※咲良がネットで検索した結果によると、聖闘士星矢ファンだった人の多くが仏ゾーンも好きな漫画として挙げていました)武井氏は質問には答えず、仏ゾーンも聖闘士星矢と同じく少年漫画ですから、とだけ言うに留めました。
次の質問は、シャーマンキングの「現代的な」登場人物達と、もっと古い世界との彼らの繋がり間に存在するギャップに及びました。すると武井氏は、読者に或る特定の価値観、つまり物語を通じて生じる思想や人生観を伝えたかったのだと説明しました。登場人物達の現代的な側面が、完全なるその支えになっているとも。
武井氏は記者の人と全く同意見だという事を表明しながら続け、確かにその連載作品の様式は少年読者にとって完全に「適切」(様式が彼らの求めるものとは違っていた、という意味でとって下さい)と言えるものではなかったと明言しました。



次は、持霊についての奇妙な質問でした。記者の人は、武井氏が霊に固有の命や心、感情を与えたように見えるという点、それから持霊達が単なるロボットではないという点に興味を抱いたようです。それに対し武井氏は、作中の人物達を「機械的」にしたいと思った事は無い、と答えました。(手短な答えで、あまりハッキリとはしていませんでした…。)
ユーモアに関する質問がその後に出されました。武井氏曰く、確かにその為には漫画が一定のリズムを持つ事、そして読者を退屈させない事が必要不可欠だとの回答。鍵となる時にはしっかりユーモアを詰め込まなければならないと考えているようです。
続く質問は、場の空気を少し和らげました。記者の人が、なぜ葉は大麻の葉っぱをこれ見よがしにTシャツに付けているのかと尋ねたのです。すると武井氏は何とか説明しようと努力しつつ、身に着けているからと言ってシャーマン達がトランス状態に入る際に法外物質を飲用するという事実に繋がるのですか、と反対に訊き返しました。そして穏やかに笑い始め、その質問は自分にとって厄介なので大してお答えできません、と言いました。(おいおい、そんな事言ってたら誰もどうしてかなんて訊かなくなっちゃうよ!)



次は技法についての質問になりました。
記者の人は、先生は週におよそ20ページご用意されるのでしたね、と言い、何故そのような環境にあってもトーン(専門文具店で売られている既製の模様)ではなく黒ベタをよく使うのですかと訊きました。それについて武井氏は、アメリカのコミックス(『ヘルボーイ』等)やフランス系ベルギー人作家らのコマ割り漫画から受けた影響の結果だと答えました。
それからとても丹念なインク付けに称賛が浴びせられ、記者は先生の技術についての詳細な説明をお願いしますと言いました。そこで再び言い回しの障壁に困る事に。と言うのも武井氏は、毎週19ページ分インク付けしているからです、と答え、それをペンを使った手作業でこなしていますから、と言って締め括ったためでした。



話は変わって、今度はシャーマンキングの結末についてお話しする番になりました。
武井氏は日本での連載終了にかかわらずこのように説明しています。出来る事ならもっと続けたかった、より良く終盤部分を展開したかった、しかしその為には、何冊か補足の巻が必要だったと。
またこうも付け足しています。他のことは連載の最後に含意されており、しかし日本の出版社のど真ん中で上役に直訴でもしない限りは私達読者にそれ以上の事を言う事は出来ない、と。
私は現在のファンの皆さんのような失望・落胆を語るつもりはありません。私が言おうとしているのは、第一に武井氏があれだけ有名な出版社の一員である事、そしてそれ故に、読者の声に自由に応える事ができなかったと考えるべきだという事です。
それから人々は武井氏に、続きを出すか或いはシャーマンキングの登場人物達を別のストーリーで再登場させる事を望んでいます。武井氏は、機会があればむしろ元のままのストーリーで続けたいと答え、それでもそのような種の好機は日本では稀だ、と付け加えました。
そして新連載は?
武井氏はちょうど構想が決まったところだ、もしかしたら頭の中に新しい計画があるかもしれないと答えています。彼は私達に辛抱してほしいと願っています。



記者の人は次に、シャーマンキングと少年漫画分野の大物であるドラゴンボールとの間で為される対比について話しました。シャーマンキングは、ドラゴンボールを上回る見込みはあるのでしょうか?
武井氏からすると、ドラゴンボールは大変素晴らしい作品であり、その作品は模範的な少年漫画の技法としての全ての要素に精通しています。図面上にこれぽっちも無駄が無く、それ故に凌ぐ事など困難だと。
それから武井氏には、ひらめきは何処で得るのか、あの作中の人物達はどのようにして創り出したのかとの質問が出されました。
武井氏の説明によると、少年向けの漫画の主人公には予め定められた規範があるとの事。彼は単にその基準を踏襲し、自分好みに手直ししただけなのだそうです。それでも先生は、確かに他の漫画のとは違う登場人物達、あらゆる点においてオリジナルな人物達を創り出したいとも言いました。
その頃出たのが、他のどの漫画の著者と一緒に仕事をしたいかについての質問。
武井氏は、日本、特に漫画の分野では、コラボレーションの企画は無いか仮にあったとしてもごく稀だと説明しました。映画界の規律と比べて武井氏が言うには、映画界では完全にチーム作業の世界だという事、しかし反対に漫画家達は、孤独に生きる人々で、日々常に対決の中に身を置いているという事でした。



続いて一般聴講者による質問の時間になりました。武井氏はその後すぐにお別れとなるので私達に許された時間はかなり限られています。ここでも私はインタビューの中で既に出たテーマの質問に出くわす事に。(仕事のテンポについてです・・・)



最初の質問は、シャーマンキングを基に作られるパロディー(ユーモラスなものやエロチックなもの)(※ど、同人のこと??)についての武井氏の意見を問うものでした。パロディーというものは実際、或る漫画がちょっと人気を博するとすぐに出てくるものです。
それに対し武井氏はわかりませんと答えました。そういった類の事にはあまり詳しくなく、さほど気にしてはいられないと。というのも、一つの連載作品に取り組んでいる時には、専らそれに専念する事になり他は目に入らないからとの事でした。近くで起こる出来事を見る時間も無いし見たいとも思わないのだそうです。



二番目の質問は、武井氏の漫画制作への情熱に関してでした。漫画家という難しい職業を志したのはいつだったのでしょうか?
質問の趣旨についてもう少し詳しくお願いしますと頼んでから先生が答えるには、とても好きだった漫画を読んで以後、それを職にしたいと思ったとの事です。その漫画が何かという事については、分からずじまいでした・・・。



他の質問で、15巻の表紙―――アイアンメイデン・ジャンヌとハオ、葉が描かれた金箔張りの表紙―――に関するものがありました。どうしてこの表紙は他の巻より色鮮やかにしたかったのでしょう?
武井氏は、この表紙にはシャーマンファイトの最も重要なグループの二大リーダーが描かれていると答えました。とても迫力のある人物達だと。そのようなわけで、重要さを際立たせて少し装飾の凝った表紙を作ろうと思ったのだそうです。



それから、あとどのくらいしたら次回作をお考えですかとの質問もありました。
すると武井氏はにっこり笑い、時間を無駄に過ごしている限りはずっと今のままでしょうね、と答えました。



そして最後に、お気に入りの漫画は何ですかという質問になりました。
武井氏からは躊躇いなく「バルです」との答えが。(※Baruはフランスの漫画家のPNで、他サイトで見つけた記事によると『太陽のハイウェイ』/原題は L'autoroute du soleil がお気に入りだそうです。作中の日本人労働者が好きキャラだとか…。タイトルと表紙を見れば成る程と思いましたがこちら参照→http://bd.casterman.com/isbn/2-203-37236-2)その漫画がすごく好きで、アングレーム市内で昨夜その作者と会談をしたそうです。
はい、これで終わりです。武井氏は最後にもう一度だけ拍手喝采を浴びて去っていきました。
講演会がファンの大部分の心に陰を残した事は言うまでもありません。原因の一部には武井氏があまり元気が無いのをみんな感じたというのもありますし、またインタビューの主題が私達の関心事と懸け離れたものだったというのもあります。私達は、武井氏が早く復帰して私達ファンに沢山のお話をしてくれるよう願っています!



※関連資料(ピンク色の部分をコピペしてアドレスバーに直接入力して下さい。)
 http://www.bdangouleme.com/…【アングレーム国際B.D.フェスティバルの公式サイト(フランス語)】
 http://www.eurojapancomic.com/fr/topics/angouleme2005/report.shtml…【2005年度祭典のレポート(日本語)】
 http://www.eurojapancomic.com/fr/topics/angouleme2005/photo.shtml…【2005年度祭典の風景写真】
 http://www.eurojapancomic.com/fr/index.shtml…【フランスの漫画・出版社・イベント事情(日本語)】































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